Ⅰ 疑惑、そして、自白 2-1

3月4日。太田警察署、第一取調室。取り調べ初日。

おどおどとした、見るからに気の弱そうな小男に向って、若くて威勢のよい取調官が、食いつかんばかりに唾を飛ばしていた。

「くにさだぁ!いい加減観念したらどうなんだよ。証拠はもうあがってるんだからな、え?お前だってわかってるだろ、こんなことに時間つかったって無駄だって、お前もわかってるだろぅが!え?」

「・・・でも・・・」

「え?でもなんだよ。え?言ってみろよ。わたしがやりました、ってなんで言えねえんだよ!え?」

若い取調官は、机の上に置いてあったアルミ製の灰皿を思い切り机に叩きつけた。

その何かをひさぐような、いかにも金属的な高い音が、小柄な国定徹の身を、ますます縮みこませた。

「まあまぁ、渡辺、もうちょっとおとなしい、優しい物言いはできねえのかい?なあ、国定さん、こんなんじゃだよ、あんたじゃなくったって、なあ、そうだよ、あんたじゃなくてもだよ、そりゃあ話せるもんも話せなくなるはなァ」

若い渡辺の肩を叩きながら、ベテランの柔らかい物腰で、もう一人の取調官が言う。

しかし、その優しい物腰とは裏腹に、その眼には一度捕まえたら放さない蛇のような鋭い光があった。

マムシの轟と言われている所以である。

「はあ、はぁ・・・」

国定はどう答えてよいのかわからず、溜息交じりの言葉をもらした。

「国定よぉ、あんたね、溜息つきたいのはこっちの方だろうがよ!おい!ふざせるなよ。証拠はあがってるんだからな!」

轟は、まあまあ抑えてと言いながら、いきり立つ渡辺と席を替わった。

「国定さんよ。渡辺はな、言い方は乱暴だが、お前さんにも言ってる意味はわかるよな?」

「・・・」

「お前さんだってムショに入ってたくらいだから、いずれだよ、遅かれ早かれ起訴されちまうんだから、だって証拠があるんだからね。まあ早いとこ吐いちまって、お互い楽になろうやな?どうだい?え?」

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