おどおどとした、見るからに気の弱そうな小男に向って、若くて威勢のよい取調官が、食いつかんばかりに唾を飛ばしていた。
「くにさだぁ!いい加減観念したらどうなんだよ。証拠はもうあがってるんだからな、え?お前だってわかってるだろ、こんなことに時間つかったって無駄だって、お前もわかってるだろぅが!え?」
「・・・でも・・・」
「え?でもなんだよ。え?言ってみろよ。わたしがやりました、ってなんで言えねえんだよ!え?」
若い取調官は、机の上に置いてあったアルミ製の灰皿を思い切り机に叩きつけた。
その何かをひさぐような、いかにも金属的な高い音が、小柄な国定徹の身を、ますます縮みこませた。
「まあまぁ、渡辺、もうちょっとおとなしい、優しい物言いはできねえのかい?なあ、国定さん、こんなんじゃだよ、あんたじゃなくったって、なあ、そうだよ、あんたじゃなくてもだよ、そりゃあ話せるもんも話せなくなるはなァ」
若い渡辺の肩を叩きながら、ベテランの柔らかい物腰で、もう一人の取調官が言う。
しかし、その優しい物腰とは裏腹に、その眼には一度捕まえたら放さない蛇のような鋭い光があった。
マムシの轟と言われている所以である。
「はあ、はぁ・・・」
国定はどう答えてよいのかわからず、溜息交じりの言葉をもらした。
「国定よぉ、あんたね、溜息つきたいのはこっちの方だろうがよ!おい!ふざせるなよ。証拠はあがってるんだからな!」
轟は、まあまあ抑えてと言いながら、いきり立つ渡辺と席を替わった。
「国定さんよ。渡辺はな、言い方は乱暴だが、お前さんにも言ってる意味はわかるよな?」
「・・・」
「お前さんだってムショに入ってたくらいだから、いずれだよ、遅かれ早かれ起訴されちまうんだから、だって証拠があるんだからね。まあ早いとこ吐いちまって、お互い楽になろうやな?どうだい?え?」
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