Ⅱ 疑惑への疑惑 2-4

「知らないです。そんなコート持ってなかったですし。そもそもね、そんなコートを着て、俺はやらないですから」

「へえ、そんなもんですか」

「はい。そんなもんじゃ、動きづらくってしょうがねえでしょ?」

「さあ、わたしにはなんとも・・・それでは普段はどんな格好で?」

「まあ、普段は地味な格好ですよ。作業服とかスーツとかね。そこら辺にいても怪しまれないでしょ?」

「まあ、確かにそうですね。では、その日もそんな格好で?」

「いや、その日は普通の格好でしたよ。まあ、ジャージの普段着ですよ」

「へえ、どうして?」

「どうしてって先生、夜に入るんだから、そんな作業着の方が何かあったら返っておかしいでしょ」

「ああ、まあ、それもそうですね」

泥棒もいろいろと考えているのだな、と山中は半ば感心しながら、国定徹の話を聞き流した。

「国定さん、普段から包丁など持ち歩いて盗みに入っているのですか?」

「いえいえ、滅相もない。基本的には空き巣専門だからね。窃盗と強盗では罰が大違いだから、そんなわざわざ危険なことはしませんよ」

「そうですか。では今回はなぜ包丁を持って行ったんですか?護身用に持参とありますが」

「いや、俺のじゃない。俺は持って行ってない」

「?それはおかしいですね。あなたはこの包丁をホームセンターのカインズホームで買ったとあるじゃないですか?」

「そ、それは、そう言わされたんだよ」

「言わされた?警察に言わされたのですか?」

「そ、そうじゃないけど、確かに俺の口からそう言ったのは言ったけど、よくわかんないけど言わされた感じで言ったんだよ・・・」

「?どういうことですかね?さっぱりわたしにはわかりません」

「だからさ、こんな感じだよ。

お前、この包丁買っただろ、買ったよな?ほらお前のうちの近くのな、あの、あそこで買っただろ?みたいに言われて、そしたらうちの近くで包丁なんかを買うとしたらカインズだろうから、そう言ったんだよ」

「・・・」

山中には警察と国定との言い分はどちらも通っているように思えた。

その時から国定徹は本当にやっていないのではないかという疑惑が、ほんのわずかであるが山中秀行の中に芽生え始めた。

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