Ⅱ 疑惑への疑惑 2-2

「先生は俺のこと信じてくれないのかよ?」

「国定さん、信じるも何も、あなたは自白しているのだし、これはもう覆せない事実ですよ」

「・・・でも」

「でも?なんですか?」

「俺は、俺は人殺しなんかやってないんだよ」

「だったら、どうして自白なんかできるんですか?やってもいないことをどうして自白できるのですか?」

「そ、それは・・・だってよぉ、それはさ、取り調べを受けた人間にしかわからないよ、先生・・・」

「しかし、やっていないなら、やっていないとその場で言わないと」

「そんなことはわかっていたさ、だけど、その現場には確かにいたんだ。いたけど殺しちゃいねえ。だけどさぁ、先生、そんなの誰が信じるもんか。そこにはいたけど殺しちゃいねえ、そんなこと言われたら俺だって信じやしないよ・・・それでね、なんか、もう訳わかんなくなってさぁ・・・」

「・・・はぁ」

山中は返答とも溜息ともつかない言葉でその場を濁した。

戯言なのか、うわ言なのか、いずれにせよ、こうなったら言わせるだけ言わせてみようかと山中は思った。

言わせるだけ言わせたら気分も落ち着くだろうし、自己矛盾に気づけば今後の国定との遣り取りもやりやすくなるだろうと山中は考えた。

「それでは国定さん、あなたの口から真実を話してください」

「先生は信じてくれますかい?」

「ええ、まぁ」

山中はこくりとうなずいた。

「本当に俺がやってないって信じてくれますかい?」

「ええ」

山中はもう一度大きくうなずいた。

「その代わり」

「はい?」

「国定さん、あなたもわたしを信じて嘘は絶対につかないでください。嘘をついた時点でわたしは降ります」

「も、もちろんですとも」

目に輝きを取り戻した国定徹を見ていると、山中は、本当にこの人はやってないのかな、と錯覚しそうになった。

「それでは国定さん、わたしは調書で事件の概要についてはわかっていますけど、あなた自身の口からもう一度聞かせてください」

「はい」

国定徹は、いきいきとした声で答えた。

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