轟は渡辺と席を替わり、血気盛んな渡辺が、ひと回りも年上の国定を、ほとんど恫喝するように責め立てた。
「おい、国定、いいか、いい気になるなよ。おい、いいか、お前はな、お前は現場にいた。なんでかわかるか?え?わかるよな?」
「・・・」
国定は椅子に背中がへばりついたかのように、身じろぎ1つせず、うつむかざるをえない様子だった。
「え?聞いてんのか?え?現場にな、お前のな、指紋のついた包丁がな、え?お前の指紋のついた包丁がだよ、見つかってんだよ、え?どういうことだよ?おい、こりゃいったいどういったことなんですかぁ!」
「それは・・・その・・・」
国定は何か弁明をしようとしたが、なぜか躊躇した。
「え?なんだよ?なんなんだよ。言いたいことがあるんなら言ったらどうなんだよ?え?やったんだろ?やったからお前の指紋がついた凶器が残ってるんだろ?え?そんなのはな、国定よ、小学生でもわかるものだぜ、まったくよ。お前、学校はちゃんと出てるんか?え?日本語はわかりますか?」
渡辺がバカにした口調になると、国定はキッと渡辺を睨み返した。
「おっ、なんだよ、なんなんだよ、その態度は、え?国定さんよォ?なんだっていうんだい?何か言いたいことでもあるんですか?日本語わかるなら答えてくださいよ・・・・答えろって言ってんだろうが、このクソ野郎が!」
渡辺がいちいち灰皿で机を叩く度に、国定は言いようのない恐怖に身を凍らせた。
「ですから・・・おれは・・・」
「え?なんだい?喋る気になったかい?」
「・・・やってはいません。本当なんです。俺は殺しちゃいねえんです、こればっかりは本当なんです。ねえ、刑事さんよ、信じてくださいよ。お願いですからね、信じてくださいよ・・・」
「だったらな、この時間、高山さん夫婦が殺された時間だよ、この時間、お前はどこにいたって言うんだよ!」
「それは・・・そうなんですけど・・・でも、殺しちゃいねえ、俺は殺しちゃいねえんですよ」
国定は、もうどうしてよいのかわからず、只うつむいたまま涙を流すしかなかった。
それから日にちをまたぐまで、渡辺と轟の執拗なまでの尋問は続いたのだった。
0 件のコメント:
コメントを投稿