Ⅰ 疑惑、そして、自白 2-3

「渡辺~、ちょっと絞ってやれ」

轟は渡辺と席を替わり、血気盛んな渡辺が、ひと回りも年上の国定を、ほとんど恫喝するように責め立てた。

「おい、国定、いいか、いい気になるなよ。おい、いいか、お前はな、お前は現場にいた。なんでかわかるか?え?わかるよな?」

「・・・」

国定は椅子に背中がへばりついたかのように、身じろぎ1つせず、うつむかざるをえない様子だった。

「え?聞いてんのか?え?現場にな、お前のな、指紋のついた包丁がな、え?お前の指紋のついた包丁がだよ、見つかってんだよ、え?どういうことだよ?おい、こりゃいったいどういったことなんですかぁ!」

「それは・・・その・・・」

国定は何か弁明をしようとしたが、なぜか躊躇した。

「え?なんだよ?なんなんだよ。言いたいことがあるんなら言ったらどうなんだよ?え?やったんだろ?やったからお前の指紋がついた凶器が残ってるんだろ?え?そんなのはな、国定よ、小学生でもわかるものだぜ、まったくよ。お前、学校はちゃんと出てるんか?え?日本語はわかりますか?」

渡辺がバカにした口調になると、国定はキッと渡辺を睨み返した。

「おっ、なんだよ、なんなんだよ、その態度は、え?国定さんよォ?なんだっていうんだい?何か言いたいことでもあるんですか?日本語わかるなら答えてくださいよ・・・・答えろって言ってんだろうが、このクソ野郎が!」

渡辺がいちいち灰皿で机を叩く度に、国定は言いようのない恐怖に身を凍らせた。

「ですから・・・おれは・・・」

「え?なんだい?喋る気になったかい?」

「・・・やってはいません。本当なんです。俺は殺しちゃいねえんです、こればっかりは本当なんです。ねえ、刑事さんよ、信じてくださいよ。お願いですからね、信じてくださいよ・・・」

「だったらな、この時間、高山さん夫婦が殺された時間だよ、この時間、お前はどこにいたって言うんだよ!」

「それは・・・そうなんですけど・・・でも、殺しちゃいねえ、俺は殺しちゃいねえんですよ」

国定は、もうどうしてよいのかわからず、只うつむいたまま涙を流すしかなかった。

それから日にちをまたぐまで、渡辺と轟の執拗なまでの尋問は続いたのだった。

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