Ⅳ 無知の暴露/真実の暴露 7-1


前橋地裁第1号法廷。高山夫婦殺害事件において、それまでのところ被告人国定徹の容疑は揺るぎないものであった。

しかし、山中が公判の直前に得た萩原からの新たなる情報によって、事件は急展開を迎えようとしていた。

法廷に入る間際、山中は萩原から連絡があり、萩原たちが真犯人を突き止めたことを知った。

犯人の名前は中島知也という名前だった。

いずれ高山真彦も警察に連れていかれ、取り調べを受けるであろうことはうかがいしれた。

しかし、山中は自分が解いた『マーク』の謎が本当であるかどうか真彦に直接訊いてみたかった。山中は子ども想いの老母が最期に発した言葉が、無意味な言葉などではなく、意味のある言葉だったと思いたかった。

山中が高山真彦に尋問を始めた。

「高山さん、本件は被告人が無罪を主張している裁判ですので、お気を悪くされるかと思いますが、ぜひご協力ください」

山中秀行は、慇懃な口振りで高山真彦に告げた。

「ええ、まあ」

真彦は不服そうに応じる。

「殺されたご両親は、高山さんにとってどのような存在でしたか?」

「はい。立派な両親でした。二人とも優しくて、周りの皆からも好かれていて・・・それがこんなことになって・・・なんていうか、悔しいというか、やるせないですね。もっと自分が何かできたんじゃないか、もしあの時、僕が実家に泊まってでもいたら・・・そしたら、そしたらこんなことには・・・」

法廷の傍聴席から女性のすすり泣く声が小さく聞こえた。

真彦の姉の松本巴江が、しきりに目元をハンカチで押さえていた。

「そうですか・・・ご心痛、お察しいたします。話に聞くところ、高山さんは幼少時よりご両親から可愛がられていたと」

「はい。その通りです・・・父も母も、気持ちの優しい、穏やかな人たちでした」

「そうですか。高山さんはご両親からはなんと呼ばれていましたか?」

「真彦とかまーくんです」

「まーくんですか。いいですね、微笑ましい家庭を想像することができます」

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