Ⅰ 疑惑、そして、自白 3-3

はぁ~、と思い切り溜息をつきながら轟は立ち上がり、渡辺と席を替わった。

「どこの世界になァ、そんなことが信じられる奇特なお方がいらっしゃるんだよ!!え?ごらぁ、くにさだぁ~警察おちょくるのもたいがいにしろよ!」

渡辺が国定の胸倉に掴みかかり、轟はただ天井を見上げていた。いつもと変わらない天井のシミを。

「え?どうなんだよ?え?現場にはいたけど、殺してませんって?どういうことなんだよ?え?あの夫婦がなにかい、全身から血ィ流して、自然に亡くなったとでもおっしゃりたいのかい?え?国定さんはよォ?」

「はは~ん、そういうことかぁ・・・」

轟は首の後ろをもみながらうなずいた。

「なあ、国定、共犯か?共犯者がいるのか?え?そうだろ?」

「え?・・・そうじゃない。知らない。俺は殺しなんか知らないんだよ」と否定する国定に轟は苛立ちを隠さなかった。

「だったら、なんなんだよ?え?お前は本当に頑固な奴だな、おい。全部吐いちまって、なんで楽になろうとしねえんだよ、まったくよぉ、え?国定さんよぉ。お前はあそこにいた。あそこでは高山夫婦が死んでいた・・・お前は殺してないと言う。それじゃあ、いったい誰が殺したっていうんだい?え?あれはどう見たって他殺だよ、え?お前以外に誰かいたっていうのか?」

「・・・いた」

「お、・・・なんだよ、いたのかよ。だったら共犯者がいたって、なんでさっき言わねえんだよ」

「違う、俺は・・・俺は知らない。共犯なんかじゃないんだよ。違うんだよ、俺は違うんだよ、殺してなんかいないんだよ、殺しなんか知らないんだよ。信じてくれよ、なあ刑事さんよ」

「あ~、なんだか意味不明な堂々巡りだなこりゃ・・・え?なにかい?からかってるのかい?それとも精神喪失で罪を逃れようってのかい?国定よぉ、お前な、そんなの時間の無駄だろうがよ。お前ね、前2件やっておいてね、なんでそんなふうにね、ふ~」

「・・・」

そんな遣り取りを続けていると別の警察官が轟を呼び寄せ、轟の耳元で二言、三言囁いた。

「国定よォ、あのな、お前んとこのアパートね、あれね、調べたら出てきたよ」

「へ?」

国定は驚いた顔をして、轟の目の中を覗き込んだ。

「コート。出てきたよ、被害者の血痕がべっとりとついたコートがよ」

轟がそういうと国定の顔がみるみると青ざめていった。

そして、その国定の表情を見ると若手の渡辺ですら、国定が間もなく落ちるであろうことは、自然とうかがいしれた。

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