「どこの世界になァ、そんなことが信じられる奇特なお方がいらっしゃるんだよ!!え?ごらぁ、くにさだぁ~警察おちょくるのもたいがいにしろよ!」
渡辺が国定の胸倉に掴みかかり、轟はただ天井を見上げていた。いつもと変わらない天井のシミを。
「え?どうなんだよ?え?現場にはいたけど、殺してませんって?どういうことなんだよ?え?あの夫婦がなにかい、全身から血ィ流して、自然に亡くなったとでもおっしゃりたいのかい?え?国定さんはよォ?」
「はは~ん、そういうことかぁ・・・」
轟は首の後ろをもみながらうなずいた。
「なあ、国定、共犯か?共犯者がいるのか?え?そうだろ?」
「え?・・・そうじゃない。知らない。俺は殺しなんか知らないんだよ」と否定する国定に轟は苛立ちを隠さなかった。
「だったら、なんなんだよ?え?お前は本当に頑固な奴だな、おい。全部吐いちまって、なんで楽になろうとしねえんだよ、まったくよぉ、え?国定さんよぉ。お前はあそこにいた。あそこでは高山夫婦が死んでいた・・・お前は殺してないと言う。それじゃあ、いったい誰が殺したっていうんだい?え?あれはどう見たって他殺だよ、え?お前以外に誰かいたっていうのか?」
「・・・いた」
「お、・・・なんだよ、いたのかよ。だったら共犯者がいたって、なんでさっき言わねえんだよ」
「違う、俺は・・・俺は知らない。共犯なんかじゃないんだよ。違うんだよ、俺は違うんだよ、殺してなんかいないんだよ、殺しなんか知らないんだよ。信じてくれよ、なあ刑事さんよ」
「あ~、なんだか意味不明な堂々巡りだなこりゃ・・・え?なにかい?からかってるのかい?それとも精神喪失で罪を逃れようってのかい?国定よぉ、お前な、そんなの時間の無駄だろうがよ。お前ね、前2件やっておいてね、なんでそんなふうにね、ふ~」
「・・・」
そんな遣り取りを続けていると別の警察官が轟を呼び寄せ、轟の耳元で二言、三言囁いた。
「国定よォ、あのな、お前んとこのアパートね、あれね、調べたら出てきたよ」
「へ?」
国定は驚いた顔をして、轟の目の中を覗き込んだ。
「コート。出てきたよ、被害者の血痕がべっとりとついたコートがよ」
轟がそういうと国定の顔がみるみると青ざめていった。
そして、その国定の表情を見ると若手の渡辺ですら、国定が間もなく落ちるであろうことは、自然とうかがいしれた。
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