Ⅲ 弁護士の直感+刑事の嗅覚 VS犯人の姦計 3-1

萩原慎太郎の頭の片隅で、真犯人がちらついていた。

しかし、まだその姿は掴みどころのない茫洋としたものだった。

高山夫婦が殺されたのはなぜか?

怨恨か?

何か目的があったのか?

それでは、高山夫婦が殺された時一番得をするのは誰か?

萩原の頭の中は、0からスタートしていた。

萩原慎太郎は、新島を伴って高山夫婦の近所の聞き込みからやり直し始めた。

警察のものだと名乗り、高山さん夫婦のことを尋ねると、皆一様にあの事件は解決したのではと訝しげな顔をした。

世間ではもう解決済みの事件となっているのだ。

高山夫婦は地元の名士ということもあり、誰かに恨まれるような人たちではなかったと近隣の住民は口を揃えて言う。

萩原たちは、近所でも高山良子と特に親しくしていたという女性を訪ねていた。

「えぇ、いい人でしたよ。旦那さんも奥さんもねぇ」

「はぁ、そうですか」

同じことを聞くのはこれで何軒目だろうかと新島は思った。

「それで変ったこととか、不審な人物とか見かけませんでしたか?」

「いえ、そんなのはね、この辺は田舎でしょ?そんな人がいればすぐわかりますよ」

「はぁ、そうですよね」

萩原たちは礼を言って帰ろうとした。

するとその女性は口ごもるように言った。

「あのぅ・・・」

「え?何ですか?」

その言葉が、萩原慎太郎の嗅覚をくすぐった。

「あのぅ、こんなことね、言うのはなんなんですけどね。ねえ、人さまのうちのことを言うのは、ね、ちょっと・・・」

「いえいえ、どんな些細なことでも遠慮せずにおっしゃってください。もちろん内密にしますし・・・」

萩原が穏やかな声音で諭す。

「そうですかぁ・・・わたしが言ったなんて言わないでくださいよ。田舎ですからね、近所の付き合いもありますし・・・」

「ええ、それはもちろん。ですから何でもおっしゃってください」

新島も女性の背中を押すように促した。

「いえね、ちょっと今年に入ってから、良子ちゃんがね、また息子さんのことでこぼすことが多くなりましてね」

「ほぅ・・・それで?」

萩原慎太郎は、女の言葉に神経を集中させた。

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