Ⅲ 弁護士の直感+刑事の嗅覚 VS犯人の姦計 1-1

もうすっかり片が付いたはずの高山彦三郎・良子夫妻殺害事件に関する山中からの思わぬ電話に、萩原慎太郎は心を揺さぶられていた。

これは誤認逮捕であれば、警察の一大不祥事になりかねない出来事だ。

それでも萩原は、警察のメンツ云々よりも、刑事として純粋に真実が知りたいと思った。

考えてみれば簡単すぎるほど簡単に解決した事件だった。

現場に証拠が残されており、すぐに指名手配がかけられ、パチンコ店で暢気にパチンコをしている犯人を逮捕したのだから…。

一刻も早く事件が解決することは、遺族にとっても、地域住民にとっても、また警察にとってもいいことにかわりはない。

そんな一種妥協的な気持ちが、自分の目を狂わせていたのかもしれない、と萩原慎太郎は自戒した。

冷静になって考えてみると、証拠品が揃っていた。

むしろ不自然に揃い過ぎていた。

指紋のついた凶器、ゴム手袋、被害者の血のついたコート、同じく壱万円札・・・。

これではなんだか工夫もしないで捕まえてくれとでも言っているようじゃないか、と萩原はひとりごち、思わずハッとした。

そうだ、なぜ凶器を現場に残した?

なぜコートを適当に処分しなかった?

なぜ右手だけ手袋を脱いだ?

萩原の中で、疑問点と矛盾点とがぐちゃぐちゃになり、それらが入り乱れながら渦を巻いた。

昨日の話が気になった萩原慎太郎は、山中秀行と直接話をしたいと思い、新島と共に山中の事務所を訪ねることにした。

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