Ⅲ 弁護士の直感+刑事の嗅覚 VS犯人の姦計 1-2

「着きましたよ」

運転席の新島が、萩原に言った。

二人は前橋市の市街地にある、こぢんまりとした山中の事務所に入っていった。

ずんぐりとした、見るからに温厚そうな男が現れ、その男が山中だった。

「いや~、刑事さん、お忙しいところ、わざわざお越しいただいて、恐縮です」

「いえいえ、仕事ですから」と新島が答える。

ソファーに通された萩原と新島が腰を据えると、奥から森井美幸がお茶を持って現れた。

二人が森井に軽く会釈をするのを見てから、山中秀行は話し始めた。

「わたしは捜査のプロではありませんから、具体的にどうこう言えないのですが、なんて言いましょうか、この、国定徹と接見していまして、自分はやってない、殺してないと言っているこの男が、どうもウソをついているようには思えなくなりまして。

もちろん、初めから信じてかかった訳ではありませんよ。まあ、あんな重大な事件ですからね、刑事さんたちもよくご承知のように、普通なら死刑、よくて無期懲役の裁判になると思っておりました。それが本当のところです」

萩原慎太郎は、とことどころで相槌を打ち、山中の言葉に偽りはないだろうと感じた。

「そこで、まあ、姑息な手段ですけど、無罪を主張して、被告人の延命ですね、これもある意味正当な手段ですから・・・」

「まあ、そうでしょうね」

新島は答える。それは誰もがそう思っていたことだった。

「そこで、わたしが、そのような戦略も含めて国定さんと接見していきますと、どうもこれは国定さんがウソをついていないような気がしまして・・・」

「その根拠は?」新島が尋ねた。

「いや~根拠というものは、ないのですが。なんて言いますか、弁護士のカンとでも言いましょうか・・・」

「カ、カン?ですか?」

新島はやや期待外れといった感じに言った。

しかし、萩原はまあそんなもんだろうと、返ってこの山中秀行という男に期待が持てる気がした。

「山中さん、あなたのそのカン・・・他には何か囁いてますか?」

萩原が口を開いた。

「いえいえ、そんな鋭いものじゃないですから・・・ただ、やはり何か変な感じではあります。まあ、その辺は刑事さんたちの方が専門でしょうから」

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