「異議あり!」
「却下します。証人は答えてください」
「・・・そんなふうではなかったと思うんですけど、被告人は忘れっぽい男なのだという頭でいたものだから。詳しくは覚えていません」
「忘れっぽいのではなく、本当に被告人は知らないのではないのか、とは思いませんでしたか?」
「思いません」
「知らないことを知っているように話すのは難しいと思いますか?」
「そりゃ難しいでしょうね」
「でも、不可能ではない」
「まあ、不可能ではないでしょう」
「ここに被告人が凶器の包丁を購入したとされる日のカインズホームの監視カメラのビデオテープがあります。これを証拠品として提出します。被告人がその場所を訪れたのであれば、当然カメラに写っているはずです。
しかし、被告人は写っていません。出入口、レジ付近、トイレの出入り口、バックヤード、計4台のカメラのいずれからも被告人の姿は発見されませんでした。証人はこれをどう思われますか?」
「さあ、たまたま写らなかっただけじゃないですか?」
「たまたまですか・・・被告人はパチンコが好きで供述書でも『タイガー』『マツハン』『ダイナモン』と少なくとも3軒のパチンコ店に行ったと供述しています。そして、これらの店の監視カメラを確認したところ、3店ともに被告人が写っていました。これもたまたまですか?」
「・・・さぁ」
「こうは考えられませんか?本当は、被告人はカインズに行っていない。だから、いつ・どこで凶器の包丁を買ったのかをすんなりと言えず、また当然監視カメラにはその姿は写っていない、これをどう思われますか?」
「・・・どうって・・・」
「異議あり!」
「認めます。弁護人は具体的に進行するように」
「はい。つまりはこういうことです。殺人という重大なことを認めておきながら、凶器をいつ・どこで買ったかというどちらかというと瑣末なことを言えない。というのは、これは明らかに『無知の暴露』であり、被告人は本件に関して、少なくとも殺人においては無罪であることの証拠であると考えております」
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