「それでは、その日にパチンコ店『タイガー』に行ったのは事実ですか?」
「はい。その通りです」
「同日深夜遅く、高山さん方近くの公園に車を止め、近所が寝静まっているのを確認し、3月3日午前2時、公園から歩いて高山さん方へ向かった。これもよろしいですか?」
「はい、間違いないです」
「そして高山さん方の裏手にあるドアを、持参したピッキング用具で開け、中に侵入、ドアを開けるのに要した時間はおよそ30秒。台所を通り居間にでる。ここまでは?」
「確かに裏手のドアを開けて中に入ったよ。まああんなカギだから30秒もかかっちゃいないと思うが、だいたいそれくらいだったかな。入ったところは暗くてどこだかはっきりはわからなかったが、多分台所じゃないのかな?でも居間までは俺は入っちゃいないんだよ」
「そうですよね。台所で何者かに殴られた・・・」
「そうですよぉ。ほらここんところ・・・」
国定徹は立ち上がりながら、後頭部の右中央辺りを指さした。
山中は傷らしきものを見つけようとしたが、それは見当たらなかった。
「何者かによって殴られた後、国定さんは気を失っていた」
「はい、その通りです」
「だから、この―そして居間の仏壇の上から2番目の引き出しを開け中から封筒に入った現金30万円を盗むことに成功。しかし、隣の寝室で寝ていた家人の高山彦三郎さんに見つかり、高山さんと揉み合った末高山さんを刺殺、またその騒ぎに目を覚ました高山さんの妻である良子さんに「なにをしている、やめろ、出ていけ」などと言われたため彦三郎さんに続き良子さんも相次いで刺殺―という部分は全くの偽りだと」
「そうですよ。俺はやってないんですよ」
山中はそう訴えてくる国定の目をじっと見つめ、そこから何かを読み取ろうとした。
しかし、何も読み取れなかった。もしかしたら本当にウソをついていないのかもしれない、と山中は再度思った。
このような仕事を長く続けているので、ウソをついている人間を大抵なら見抜ける自信が、弁護士の山中秀行にはあった。
何よりも弁護士としてのカンが、さっきから疼いていた。
事件の時間のことは本当なのか?ウソなのか?
この時間『空白』と、山中はメモした。
「それで、国定さん、捕まるまでの行動は間違いありませんか?」
「はい、そうです」
山中は声に出さずに供述調書を目で追った。
パチンコ『マツハン』・・・。
パチンコ『ダイナモン』・・・。
「国定さん、ずいぶんパチンコがお好きなんですね?」
パチンコが自分の趣味の範疇にないので、山中は苦く笑わざるを禁じえなかった。
「えぇ、どうも、ダメなんですね。こればっかりは、好きでしてね・・・まあ、パチンコのせいでちょっと金がね、すみません」
「そうですね。気をつけないといけませんよね」
国定徹がこのまま裁判を受ければ、まず99・9%死刑、もしくは無期懲役の相手だということを、山中秀行は束の間、忘れていた。
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