Ⅱ 疑惑への疑惑 7-1

5月31日から国定徹の公判が始まった。

冒頭陳述において、担当弁護士の山中秀行は、当初の予定通り無罪を主張した。

しかし、その根拠や証拠といったものは、まだ見当すらついていない。

山中は事務所にこもり、国定の調書を読み直し、おかしな点や矛盾点を探していた。

机の上には、高山夫婦殺害事件の現場に残された証拠品と、まったく同じ型のものが並べられている。

殺害に使用したものと同じ型の包丁。

ゴム手袋。

ビニールレザーのコート。

どれも量販店で売られている、ごくありきたりのものだ。

森井美幸も山中の隣に座り、供述調書を読み返した。

そして、ゴム手袋の左手の方を、机の上からどかした。

「美幸ちゃん、勝手に片付けちゃ困るよ」

山中は苦笑いする。


「え?だって先生、ゴム手袋は右手だけしか残っていませんでしたよ」

「ん?・・・そうかぁ・・・」

山中秀行の中で、何かが閃きそうになった。

しかし、その何かは、すぐに消えてしまった…。

「こんなコート着て、初めから殺害目的みたいですよね・・・」

森井は、何気なくそう言いながらそのコートを着た。

「わ、ぶかぶかだぁ~やっぱり男のもののコートって大きいんですね・・・」

森井はそう言いながらクルクルと回った。

山中は、それを見ながら、国定孝洋が国定徹のことを「あいつはちょっとね…」と言いながら、頭のところでクルクルと指を回したことを思い出していた。

「ん?・・・」

山中の中で、何かが火を噴いた。

「美幸ちゃん!」

「あ、先生、ご、ごめんなさい・・・」

「違うよ、そうだよ・・・」

山中は興奮気味に、意味不明なことを言うと、美幸の後ろに回りコートのタグを見た。

「やっぱり・・・」

「え?先生、なんですか?」

「美幸ちゃんは、背は、身長はいくつかね?」

「え?163ですけど、なにか?」

「そうだろ、そんなもんだろ。国定も小柄な男で、背の高さはちょうど美幸ちゃんくらいなんだよ」

「あ、そうなんですか?」

「そうだよ、そうなんだよ。おかしいと思わないかい?」

「はい?」

「コートだよ、コート」

「コートですか?」

「脱いでみて、そう・・・サイズ見てごらん」

「LLですね・・・」

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