5月31日から国定徹の公判が始まった。
冒頭陳述において、担当弁護士の山中秀行は、当初の予定通り無罪を主張した。
しかし、その根拠や証拠といったものは、まだ見当すらついていない。
山中は事務所にこもり、国定の調書を読み直し、おかしな点や矛盾点を探していた。
机の上には、高山夫婦殺害事件の現場に残された証拠品と、まったく同じ型のものが並べられている。
殺害に使用したものと同じ型の包丁。
ゴム手袋。
ビニールレザーのコート。
どれも量販店で売られている、ごくありきたりのものだ。
森井美幸も山中の隣に座り、供述調書を読み返した。
そして、ゴム手袋の左手の方を、机の上からどかした。
「美幸ちゃん、勝手に片付けちゃ困るよ」
山中は苦笑いする。
「え?だって先生、ゴム手袋は右手だけしか残っていませんでしたよ」
「ん?・・・そうかぁ・・・」
山中秀行の中で、何かが閃きそうになった。
しかし、その何かは、すぐに消えてしまった…。
「こんなコート着て、初めから殺害目的みたいですよね・・・」
森井は、何気なくそう言いながらそのコートを着た。
「わ、ぶかぶかだぁ~やっぱり男のもののコートって大きいんですね・・・」
森井はそう言いながらクルクルと回った。
山中は、それを見ながら、国定孝洋が国定徹のことを「あいつはちょっとね…」と言いながら、頭のところでクルクルと指を回したことを思い出していた。
「ん?・・・」
山中の中で、何かが火を噴いた。
「美幸ちゃん!」
「あ、先生、ご、ごめんなさい・・・」
「違うよ、そうだよ・・・」
山中は興奮気味に、意味不明なことを言うと、美幸の後ろに回りコートのタグを見た。
「やっぱり・・・」
「え?先生、なんですか?」
「美幸ちゃんは、背は、身長はいくつかね?」
「え?163ですけど、なにか?」
「そうだろ、そんなもんだろ。国定も小柄な男で、背の高さはちょうど美幸ちゃんくらいなんだよ」
「あ、そうなんですか?」
「そうだよ、そうなんだよ。おかしいと思わないかい?」
「はい?」
「コートだよ、コート」
「コートですか?」
「脱いでみて、そう・・・サイズ見てごらん」
「LLですね・・・」
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