Ⅱ 疑惑への疑惑 6-3

「そうなんですよ。わたしもね、急にそんなのがいるから、包丁やら何やらを持ってたら危ないって、とっさに思って大声あげたら、やっこさんそれで腰抜かしちまいましてね。

ええ、まあ、なんとも間の抜けた泥棒だなって、思ったんですよね。それでね、なんだか向こうが情けないようになってるから、このまま警察へね、言う前にまあ、話のひとつでも聞いてみようかと思いましてね、話しはじめたら、すみません、すみません言うばかりでね。

それでいくら盗ったんだって聞いたら、1万円だって言うんでね、嘘言えお前、引き出しには3万は入ってたぞってね、わたしはそいつを引っ張って行って、引き出し開けたんですよ。

そしたらそこには2万円残ってたんですなぁ。

これはいったいどういうことだって不思議に思ったのですけど、でも、こんなコソ泥でもなんだか考えがあるのかな、なんて思っているとなんかね、情っていうんですかね、まあ金さえ返してくれたらいいよ、これで帰えんな、もう二度と悪さするんじゃないよ、って帰らせようとしたら、パトカーの音が聞こえてきて、うちに警官が入ってくるじゃないですか。

まあ、後になって聞いたら、近所の人が気を利かせて警察呼んだって話で、そうなるともう警察の方に任せるしかないから、ああやって刑務所にも入ったようですね」

「はぁ・・・そうですか」

「ですからね、あの男がそんな大それたことをするなんて、世の中変われば変わるもんですね」


山中は帰る道すがら、先ほどの笹川との会話を、頭の中で何度も繰り返していた。

そして、思えば思うほどそのようなことは、国定徹にしっくりくる出来事に思えてならなかった。

つまり、コソ泥じみた国定徹ならばともかく、高山夫婦を殺したという国定徹というものが、全くしっくりとこなかった。

真実は一つ・・・。

自分の思い描いている国定徹に、矛盾やウソを山中秀行には発見できなかった。

もし、自分が思い描いている通りの国定徹であるならば、ウソである供述調書にウソや矛盾がなければいけない。

そうだ!それを見つければいいのだ。いやむしろ、それを見つけなければいけない!と山中は、心の中で叫んでいた。

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