Ⅱ 疑惑への疑惑 6-2

翌日、「真実は一つ」と心の中で反芻しながら過ごすうち、山中秀行は国定徹の前の事件について調べてみようと思いたった。

山中は、服役することになった窃盗事件の被害者宅へと向かった。

国定は前科2犯で初犯は8年前のことだ。

前橋市内のアパートの敷地内に、怪しい男がいるとの通報を受けた警察が現場に行き、任意で同行を求めたところ、国定はあっさりと窃盗を認めた。

こちらは執行猶予がつき、刑期は免れている。

2度目は4年前、同様に前橋市内の住宅で、窃盗の現行犯でそこのうちの住人に逮捕されている。

これにより国定徹は、3年の実刑判決を受けて前橋刑務所に服役していたのだった。


山中が被害者宅の笹川清の門を叩くと、中から骨太で、目つきの鋭い初老の男が出てきた。

山中は笹川に名刺を渡した。

「弁護士さん?はて、いったいなんの御用ですか?」

笹川は、風貌とは裏腹に優しい物言いであった。

「あの、少しお伺いしたいことがありまして」

「はい、なんでしょう?」

「実は覚えていらっしゃるかどうか、国定徹のことについてお聞きしたいのですが。4年前、笹川さんのお宅に入った窃盗事件の犯人です」

「あぁ~、あれね、覚えていますよ。あの人今度は殺人だったんですってね。いや~人間変われば変わるもんですね」

「え?どういうことですか?」

「あんな虫も殺せないような人がね、いえいえ、いい意味で言っているんじゃないんですよ。そんな大それたことができるなんてね、わたしには俄かには信じがたいですよ」

「と言いますと」

「実はですね、事件って言ってもね、別に捕りものがあったって訳ではないんですよ」

「はぁ」

「わたしが夕方家に帰ってくると、この玄関でですね、国定とばったり出くわしたんですよ」

「え?そうなんですか?それで笹川さんにお怪我はなかったのですか?」

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